2009年04月10日

ファリアス『ハイデガーとナチズム』/ラクー‐ラバルト『政治という虚構』

V・ファリアス(山本尤訳)(1990)『ハイデガーとナチズム(1987)』名古屋大学出版会

二十数年前に、世界中で(少なくとも部分的には)物議をかもした著作。ファリアスはハイデガー晩年の教え子の一人。
ハイデガーのその後の発展は、ナチズムの世界観の一般的要素との近親性を視野に入れないかぎり、正確に理解することはできない…。これは、ハイデガーがナチズムの世界観に独特の形式と彼の文体を刻み込んでいるからでもある。…ナチズムに対するハイデガーの関係のもつ意味を些細なものとして軽視しようとする多くの試みとは反対に、…この関係の中で、この関係によって、彼自身の過去および一つの時代全体と一致して表現されており、この思想のその後の発展は本質的な点においてこの関係の中にはっきりと認められる。(p.37)
正直、通読する必要性にも疑問を感じていたが、読んでみると、いかにハイデガーがその思想の根底でナチ以上に国家社会主義的であろうとしたのか、しかも終生一貫してそうであったのかがよく見て取れる。(後述するラクー−ラバルトの立場からしてみれば、まんまと術中に嵌ってしまっているとも言えないことはないが) ただ、十二年かけて可能な限り資料を掘り起こした著者の根気には頭が下がる。(結局、当時は研究者に閉ざされていた資料も明らかにされているのだろうか?) 日本でもつい最近、この論争についての著作が出版されているのを発見した。というか、想像以上に今日まで論争が重ねられてきていたことを今更ながらに知って恥じ入るばかり…。上下併せて、1100頁という超浩瀚な研究書。

中田光雄(2002)『政治と哲学: 「ハイデガーとナチズム」論争史の一決算(上)(下)』岩波書店

F・ラクー‐ラバルト(浅利誠/大谷尚文訳)(1992)『政治という虚構―ハイデガー、芸術そして政治(1988)』藤原書房

フランスでのハイデガー擁護者の一人(と反対者の側からは見なされる)。本書には上記著作についての補遺が収録されている。ハーバーマスがそのドイツ語版に付けた序文にも言及されていた。彼曰く、「フランスのハイデガー弁護者たちは、ナチズム選択を、『存在と時間』の思索がなお「形而上学的思考」の中に深く根付いていており、ニヒリズムの運命になお深く捕らわれていたことから説明しようとして、事柄を逆立ちさせている。」(p.29) ただ、単純な事実としてのナチへの荷担・人的関係をもってハイデガーを非難するのも、もっともらしい印象を生み出すばかりで、限界があろう。34年以降の流れについては特にそうである。その点、ラクー−ラバルトはハイデガーのテクストを内在的に吟味することによって問題の所在をいくらか厳密に見据えられているように思える。
私はハイデガーを糾弾しようとは思わない。いかなる権利で、そのようなことができるというのか。私は一つの問いだけに、しかも思惟のための問いだけにとどめたい。もろもろの事実を蒸し返すことが無益だと思われるのは、この理由からである。十分な資料がないために、数多くのまちがい、あらぬ噂、あからさまな中傷をまき散らす危険があるのにくわえて、事実の収集がこの問いにたいして何をなしうるのか私には分からない―ただし、ナチであることは犯罪であった、と文句なしに認められていると考えるのであれば話は別であるけれども。(p.61)
問題なのは、戦後、公的にも、〈第三帝国〉の崩壊によってこの〈第三帝国〉が何を啓示したか―それは事実上、黙示録的なものであった―が明らかになったさいの彼らの固有の責任、つまり思惟の責任においても、当の知識人たちが、いずれにせよハイデガーが、この問題に立ちむかい、それを引きうけることが、じつは思惟の義務であることを拒絶したということなのである。(p.66)
神はアウシュヴィッツで死んだ。もちろんハイデガーはこのようなことは一度も言っていない。しかし、彼が言おうと欲したならば、言いかえれば、何らかの歩みを―おそらく勇気ある一歩を―進めることに同意していれば、そう言っていただろうと、どうしても考えざるをえない。(勝利者の「勝利」に力をえて説明を要求し、弁明されることを要求したものたちにたいして、彼が一切発言を拒んだことはなんとか理解するとしても、生存者のなかで、たとえばツェランのように、彼が見解を表明することを期待していたものたちに何も言わなかったことは、私にはどうしても納得できない。)(強調は原文どおり)(p.75)
posted by ta at 20:59| Comment(0) | TrackBack(0) | 文献レヴュー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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